2018年6月に、スイスのジュネーブにて世界保健機構(WHO)が約30年ぶりにICD−11(国際疾病分類の第11回改訂版)を公表し、この改訂により、「ファシア」という用語が正式に体組織の基本構造物に追加されました。

我が国では、医学用語としてのファシアは「ネットワーク機能(各組織や器官を繋ぎ、支え、知覚するシステム)を有する線維性の立体網目組織」と定義されています1)

骨格筋を覆い多分節へと連続する筋膜や、脂肪組織、内臓を覆う結合組織、神経・血管外層を覆う結合組織など全てがファシアに含まれます。

ファシアの機能には以下のようなものが挙げられます。

  • あらゆる組織や器官の位置の保持
  • 組織間の滑走性の保持
  • 多方向への力伝達機構
  • 筋出力の調節に関与
  • 侵害受容器による疼痛感知:疼痛センサー
  • 固有受容器による張力感知:位置・運動センサー

上記より、私たちが生体内で各組織や器官の位置を保持しながら、外界からの刺激に合わせ、目的の日常生活動作を遂行するためには、ファシアの存在が必要不可欠であることが理解できます。

 身体に生じる様々な機能障害や、既存の疾患では説明のつかない痛みや痺れ症状の原因部位として、近年、ファシアが世界的に注目されています。筋膜を例に挙げると、慢性腰痛症患者では胸腰筋膜(Thoraco-Lumbar Fascia:TLF)が肥厚し伸張性が低下していたという調査結果が報告されており2)、慢性頚部痛患者においても、胸鎖乳突筋・斜角筋の深筋膜が肥厚し、エコー画像上で観察される深筋膜の厚みとVAS(visual analogue scale)の数値が相関していたという調査結果もあります3)

 浅筋膜や筋外膜とaponeuroticfascia(正式な日本語名称は不明、腱膜筋膜と訳されることあり)から構成される深筋膜※1には自由神経終末が存在しており、これらに組織学的な異常や機能不全が生じることで、運動器における様々な疼痛症候群の原因部位となる可能性が示唆されています3)4)(ファシア異常の発生機序はこちらをご参照ください)。

 当会ではファシアの機能改善を目的とした物理療法「EFS®︎therapy(Electrical Fascial Stimulation therapy:EFSセラピー)」を考案し提唱しています。

※1:筋外膜とaponeuroticfascia を深筋膜と呼称する場合もあれば、aponeuroticfasciaを深筋膜と呼称する場合もあり。

参考文献

  1. 一般社団法人 日本整形内科学研究会ホームページ(2024年6月閲覧)
    URL:https://www.jnos.or.jp/for_medical
  2. Langevin HM, Fox JR, Koptiuch C, et al.: Reduced thoracolumbar fascia shear strain in human chronic low back pain. BMC musculoskeletal disorders. 2011; 12(1): 203.
  3. Stecco A, Meneghini A, Stern R, Stecco C, Imamura M: Ultrasonography in myofascial neck pain: randomized clinical trial for diagnosis and follow-up. Surgical and Radiologic Anatomy. 2014; 36(3): 243-253.
  4. Weiss K, Kalichman L. Deep fascia as a potential source of pain: A narrative review. J Bodyw Mov Ther. 2021 Oct;28:82-86. doi: 10.1016/j.jbmt.2021.07.007. Epub 2021 Jul 17.