【コラム】訪問看護における関節拘縮治療とファシア

執筆者:永木 和載

サービスの提供時間と頻度が限られている中で理学療法士としてどのように関わるべきか、頭をフル回転させ考えるのですが、日々の臨床において大きな課題として直面するのが表題にある関節拘縮です。

端的に申し上げますと、はっきり言って治療が難しすぎます。まず、関節構成体が正常な状態にある方を探すのが難しいほど、大部分の方に関節変形が生じています。次に、浮腫と筋攣縮という、言わば拘縮悪化因子の二大巨頭が揃い踏みの状態にあります。

在宅の高齢者の多くは様々な理由により日中不活動状態にあります。その為、浮腫の治療は浮腫そのもののみならず、活動状態を高めるための環境調整や動作指導が必須となります。加えて、不活動状態が持続していることで、関節周囲の軟部組織に広範囲(広さ×深さ)にわたり癒着1)が生じています。どのレイヤーで癒着が生じているのか、解剖学、関節運動学等をもとに考えながらアプローチをするわけですが、一か所の癒着を剥離する徒手操作を仮に3分かけて実施するとして、5か所想起されれば15分という時間が必要となりますので、時間管理がとても難しいのです2)

そこで、私は下腿に広範囲に浮腫を伴った足関節の関節拘縮に対して、洗顔タオルを用いたアプローチを思いつき、実践しております。具体的には、下腿中央部に洗顔タオルを下腿にしっかり密着させながら全周性に巻きつけます。次に、タオルの残り部分を丸めて握り手を作り、その握り手を脛骨内側縁中央辺りに位置します。タオルが緩んでいない状態を保ちながら、握り手を水平面上で前後させると下腿骨幹に対し軟部組織全体を水平面上で動かすことができます。

リズミカルに30回程度、タオルを前後方向に動かすと一時的に下腿筋群が全体的に弛緩し、かつタオルが接触している部分の浮腫が軽減します。非常に再現性が高いことと短時間で広範囲に下腿にあるファシアの柔軟性を高められることから臨床で多用している技術なのですが、なぜ、一過性に筋弛緩効果が得られるのかについては以前より疑問でした。

先日、疑問解決のヒントになる論文3)を読みました。その論文には、下腿筋膜を構成するファシアが筋紡錘と連結しており、筋紡錘の感度調節に関わっている可能性があることが記されておりました。想像を膨らませると、タオルによる適度な圧迫と伸張刺激が下腿筋群の筋紡錘に影響を及ぼし、筋紡錘の感度を低下させた結果、一過性に筋弛緩が得られた、といった機序が働いたのかもしれません。

実に、面白い。これだからファシアの探求はやめられません。

1)この場合の癒着とは、徒手刺激で剥離できる程度の軽いものを指します。

2)訪問看護における理学療法士のサービスには、20分枠、40分枠、60分枠の3つの時間枠が存在します。例えば本文のように癒着剥離に15分時間をあてると20分枠では残り5分、40分枠では残り25分と時間に余裕がなくなります。限られた時間で理学療法の効果を最大化するためにも、評価、治療の目的やプロセス等について十分な検討と準備を済ませたうえで臨むことが大切です。

3)A. Stecco et al. Fascial Disorders: Implications for Treatment. the American Academy of Physical Medicine and Rehabilitation 8 (2016) 161-168