【コラム】症状の原因分析とファシアの視点
執筆者:浅賀 亮哉
理学療法評価において症状の原因分析に使用される整形外科的検査には感度と特異度が存在する。感度とは、陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確立であり、特異度とは、陰性と判定されるべきものを正しく陰性と判定する確立として認識されている。そして、感度と特異度の両方が100%の検査は存在しない。先天性の疾患や構造的な亜型は存在するものの、おおむね皆が共通の構造を持つ筋骨格系の検査において、感度と特異度が存在するのは、検査対象としている構造物以外に原因因子が存在する場合があるからである。そのため、いくつかの検査を実施することで原因分析の精度を高める必要がある。
坐骨神経痛と呼ばれる殿部や下肢後面部の症状を例にすると、代表的な原因部位として梨状筋が挙げられ、同筋由来の症状は、筋の深部において坐骨神経が圧排または滑走不全が生じることで発症すると言われている。そのため、坐骨神経痛症状に対して実施する検査には、梨状筋の機能を評価するKボンネットテストがある。その他にも他の原因因子を検索するため、SLRテストやブラガードテストなど様々な検査がある。また、椎間関節や仙腸関節など他分節における機能障害に関連した原因も存在するため、より視野を広げた検査の選択が必要になる。しかし、全ての検査が陰性で医療機関における画像検査などでも特定の原因が見つからないケースも存在する。そのようなケースにおいては、ファシアの視点から検査を立案することが有用であると考えている。
ひとつ例をあげると、fasciatomeという領域分布からの視点である1)。これは骨格筋を包囲する筋膜の感覚領域分布であり、dermatomeや固有神経支配領域に当てはまらない疼痛領域が発生する根拠のひとつとして参考にされている。fasciatomeから筋膜に関連した坐骨神経痛様症状を疑う場合には、多分節にわたる筋機能を評価したり、fasciatomeにならって症状がある部位の担当髄節の異常を疑うなどで、原因部位が予想できる可能性がある。 従来の原因分析にファシアの視点を加える事で、今まで予想することのできなかった原因因子に辿り着けるかもしれない。
<文献>
1)Stecco C, Pirri C, Fede C, Fan C, Giordani F, Stecco L, Foti C, De Caro R. Dermatome and fasciatome. Clin Anat. 2019 Oct;32(7):896-902.