EFSセラピーとは
EMSを用いファシアに適切な機械的刺激を加え、ファシア由来と考えられる痛みと機能不全を改善する新しい治療法がEFSセラピーです。EFSセラピーの対象者は筋膜性疼痛や神経性疼痛様の症状に悩む方、凍結肩に代表される強固な関節可動域制限を有する方等、多岐にわたります。
セラピストによるファシア治療の課題
近年、ファシアを対象とした治療方法が急速に発展しています。
我が国においても、医師によるエコーガイド下ファシアハイドロリリースや鍼灸師によるエコーガイド下鍼などが存在し、ファシア由来と思われる症状改善に向け選択的に施行されています。
これに対し、注射や鍼を扱えないセラピストは、局所のファシア異常に対して運動療法や徒手操作による治療を試みます。
しかし、症状や身体機能の影響から正確な運動療法が実施困難な場合があります。
徒手操作においても、身体深部に発生したファシア異常に対して適切な機械刺激を加えられているか否かの確認は困難であり、仮にそれが主観的な徒手感覚により可能であったとしても高度な技術が求められるため、経験の浅いセラピストでは治療の再現性に欠けてしまうという課題があります。
つまり、セラピストが行う現状のファシア治療においては、目標のファシアに刺激を加えるための深達度と汎用性において課題があると考えます。
EFSセラピーとは
当会では、上記に示す深達度と汎用性の2点の課題解決をElectric Muscle Stimulation(以下EMS)に求め、EMSを用いたファシアに対する治療法としてElectrical Fascial Stimulation Therapy(以下EFS®️セラピー)を考案し、提唱しています。
EFS®️セラピーの定義は、「EMSを用いファシアに適切な機械的刺激を加え、ファシア由来と考えられる痛みと機能不全を改善する治療法」です。EMSを用いることで、汎用性の課題を解決することができます。そして、深達度の課題を解決するために、EFSセラピーに用いるEMSについて、いくつかの選定基準を設けています(EMSの選定基準の詳細はこちらをご参照ください)。
次に、EFS®️セラピーによるファシア治療の科学的根拠について、ファシア異常の発生機序とファシア異常の改善に必要な刺激の観点より説明します。
ファシア異常の発生機序
筋の過用(overuse)、誤用(misuse)、攣縮(spasm)※2などにより長時間の異常な筋収縮状態が継続すると、上昇した筋内圧により毛細血管の閉塞が誘発され、筋と筋膜への酸素拡散を障害し、酸化代謝が阻害されます。
このような慢性的な低酸素状態は、乳酸の蓄積を引き起こし、局所のpHを低下させます。
pHの低下はHA鎖(ヒアルロン酸の構造)の重合を引き起こし、ファシアの”高密度化”が誘発されます1)。
HA鎖の重合により組織の粘度が増加した結果、ファシアの正常な”滑走”が妨げられ、局所的なバイオメカニクスの変化が生じる可能性があると言われています2)。
また、局所の低酸素状態と低pHにより、ブラジキニン、 サブスタンスP、セロトニン、炎症性サイトカイン、カルシトニン遺伝子関連ペプチドなどの発痛物質がファシアとその周辺で増加することが報告されています3)。
以上のことから、ファシア異常(高密度化)は疼痛の原因部位となり、滑走性低下による運動機能低下の原因となりうると考えられています。
そして、筋の過用(overuse)、誤用(misuse)、攣縮(spasm)を改善することがファシア異常の予防となり、さらに、高密度化してしまったファシアを改善することが、ファシア由来の症状を改善するために必要なプロセスであることがわかります。
※2:筋攣縮の定義は、神経学的な分野において「断続的に生じる一定の持続時間を持った異常な筋収縮状態」と定義され、理学療法の分野においては、「痛みに起因する局所的で持続的な筋緊張の亢進状態」と定義されています。当会では、理学療法の分野における筋攣縮を採用しています。
ファシア異常の改善に必要な刺激
ファシアの構成要素である線維芽細胞は、繰り返し適用される負荷刺激に合わせて、ファシアの形態を適応させるとことが分かっています4)。
つまり、高密度化したファシアの形態を正常化させるためには、目標となるファシアに対して、反復的な機械刺激を加えることが有効であると考えられます。
次に、HA鎖の重合により増加したファシアの粘性を低下させるためには、HA鎖を脱重合させる必要があり、そのためには35〜40℃までの局所温度の上昇が必要だと言われています1)。
先行研究によると健康な男子体育学生8名に対し、スクワットジャンプやスッテッピング運動を実施させたところ、平均15分間の実施で筋温が38℃まで上昇したと報告されています5)。
このように増加したファシアの粘性を低下させるためには骨格筋の熱産生を利用するべく、骨格筋を反復して収縮させることが有効であると考えます。
以上より、当会では、ファシア異常を改善するための治療手段として、汎用性の課題を解決するために、簡便性と再現性を兼ね備えたEMSを採用し、筋収縮による熱産生と反復的な機械刺激によるファシアの機能改善効果を期待できる治療法「EFS®️セラピー」を考案しました。
参考文献
- MT Yıldızgören, Burak Tayyip Dede, The Role of Fascia in Myofascial Pain Syndrome: A Look at Cinderella Tissue. Cam Sakura Med J. 2024; 4(1): 1-8 | DOI: 10.4274/csmedj.galenos.2024.2024-3-1
- Stecco A, Stern R, Fantoni I, De Caro R, Stecco C. Fascial Disorders: Implications for Treatment. PM R. 2016 Feb;8(2):161-8. doi: 10.1016/j.pmrj.2015.06.006. Epub 2015 Jun 14.
- Ganjaei, Kimia G et al. “The Fascial System in Musculoskeletal Function and Myofascial Pain.” Current Physical Medicine and Rehabilitation Reports 8 (2020): 364 – 372.
- Robert Schleip, Divo Gitta Müller : Training principles for fascial connective tissues: scientific foundation and suggested practical applications. J Bodyw Mov Ther. 2013 Jan;17(1):103-15.
- 永井将士. 他: 筋温がパフォーマンスに及ぼす影響. 臨床スポーツ医学36(6):612-618 2019